僕が『YouTuber』になった日
今から約6年前、2013年の5月。
ネットサーフィンをしていると、ある質問掲示板でこんな投稿を目にしました。
「SEKAI NO OWARIの『RPG』という曲のダンスが踊れません。どうやって踊ればいいですか?」
自分がダンスを好きだったから目に止まったこの投稿。
でも、恥ずかしながら僕は「SEKAI NO OWARI」というアーティストも、『RPG』という曲も、当時は知りませんでした。
「一体どんなダンスなんだろうか」
僕は興味本位で調べてみることにしたのです。
「なるほど。これなら踊れるかもしれない。」
動画を何度か見ながら、早速振り付けを覚えてみる僕。
ある程度踊れるようになったかなというところで、あの掲示板の質問者さんに説明してあげることにしました。
しかし、いざ返信画面を前にして、思ったのです。
「どうやって文章だけでダンスを教えるんだ…?」
試しに「最初に右手を上げて、次に左手を…」と書いてみますが、細かい動きやリズム、ニュアンスを伝えることができません。
何より、ものすごい文章量になってしまい、とてもわかりにくくなってしまうのです。
文章に写真も加えたダンス解説の本を読んだことがありますが、僕はあれですらダンスを踊れるようになった試しがありません。
あるステップを頑張って本で覚えた後、動画でそのステップを見たら、「全然違う動きじゃん!」ってなったこともあります。
僕は悩んだ末、ある結論に至りました。
「動画で説明するしかない」
そう。僕は見ず知らずの人のために、振り付けの解説動画を撮ることにしたのです。
この動画を他にどれだけの人が求めているのかはわからない。
けれど、確実に1人は喜んでくれることはわかっている。
ならば、やろうじゃないか。
僕は決心しました。
今思い出しても「自分めっちゃ良い奴だな」って思います。
というか「めっちゃ暇だったんだな」って思います。
しかし、このチャンネルが数年後、登録者10万人を超えるチャンネルになろうとは、当時は思いもしませんでした。
さて、動画を撮ることが決まったので、さっそく撮影準備です。
まずは撮影スペース。
これは当時、仕事用に倉庫として借りていた家を使うことにしました。
けれどこの家、めちゃくちゃ古くてボロい。
大家さんにすら
「あの家には近づきたくない」
と言われるほどの廃墟です。
あと業者さんにエアコンの取り付けをお願いしたところ、
「この家にエアコンをつけたら、家が燃えるよ」
と言われました。どういうことだよ。
そんなユニークな家ですが、めちゃくちゃ掃除と片付けをして、一応の撮影スペースは確保。
安いカメラを用意し、いざ撮影です。
しかし思い返してみれば、これまでカメラに向かって見知らぬ誰かに話した経験なんてありません。
「なにこれ!めちゃめちゃ緊張するんだけど!」
部屋で一人 恥ずかしがる僕。
あとで動画を貼っておくので、僕のモジモジ具合を見てみてください。
しかもこの時、「編集をする」という発想がなかったため、
「説明の途中で噛んだり、ミスをしたら、最初から撮り直す」
という地獄のような撮り方をしました。
結果的に、5回くらい撮り直したと思います。
途中から「もうミスっても続けよう」ってなってました。
さて、めちゃくちゃ恥ずかしいけれど、僕が動画の道に進むことになった原点であることには間違いないので、ここにその動画を貼っておくことにします。
よかったらダンスも覚えてみてください。
この動画をめちゃくちゃドキドキしながらYouTubeにアップし、掲示板の質問者さんにもリンクを教えてあげました。
結局、掲示板での返信はありませんでしたが、この動画は想像以上の反応がありました。
たくさんのコメントが届き、同じように踊れず困っていた人からの感謝の言葉や、別の曲のリクエストなど、その内容は様々。
そして僕は思ったのです。
「こんなに喜んでもらえるなら、もう1本だけ撮ってみようかな…」
こうして僕は、
・狭くて汚い家
・安いカメラ
・編集ソフト無し
という、まさにゲームの『RPG』さながらの初期装備で、YouTube界の冒険へと繰り出すことになったのでした。
編集後記
このダンス動画の投稿をきっかけに、僕は動画編集を覚え、今ではそれが仕事になりました。
動画の道へ進むきっかけをくれた質問者さんとYouTubeには感謝しています。
このYouTubeチャンネルは、いろいろ思うところがあり、登録者10万人突破のタイミングでダンス動画の更新をやめました。
今でもたまにビデオブログのようなものを投稿することはありますが、世間の言う『YouTuber』ではなくなったと思います。
はじまりの場所となったこの家も、先日、引き払ってきました。
この部屋で汗を流して、いろんなダンスを踊りました。
いろんな動画を撮りました。
たくさんの思い出が詰まったこの家を去るのは、やっぱり寂しかったです。
最後に記念写真を撮った僕は、感慨深く、こう言いました。
「俺の髪型、ベティちゃんじゃん。」