僕の天パはどうやら生きているらしい
「じゃあ、僕が銀さんの髪を切るのも、残り少ないですね」
いつも髪を切ってくれる2歳下の友人『りーくん』は、
鏡越しに僕を見ながら苦笑いで言った。
僕が突然「30歳になったらスキンヘッドにする」と言い出したからだ。
もう残り1年も無い。
もちろん冗談で言ったつもりだったけど、
同じことを5年前にもツイートしていたから、割と自分は本気なのかもしれない。
当時のツイート
30になったらハゲてもハゲてなくてもスキンヘッドにする。
— 銀三郎 (@ginzablow) 2012年11月27日
このツイートをした5ヶ月後、
僕はひょんなきっかけで りーくん と出会い、初めて髪を切ってもらった。
この時、僕は24歳。
当時の写真
彼は当時からすごくアクティブで、
いろんなことを経験し、いろんな話をしてくれる。
美容師のカットスキルを活かし、庭師の仕事もできること。
アメリカで追い剥ぎに遭ったこと。
いつか彼が死んだとき、一緒に棺桶に入れてほしい本があること。
飄々(ひょうひょう)としていながらも律儀な性格で、
僕に仕事や人を紹介してくれることもある。
少し前までママチャリで通勤していたり、
来年の目標の1つが「髪型を変えないこと」だったり、
僕が持つ美容師のイメージとは少し違う男だ。
そんな彼に切ってもらう僕の髪は、かなりクセが強い天然パーマ。
この29年間、自分でちゃんと扱えた試しがない。
りーくん には
「銀さんの髪はね、生きてます」
と言われた。
また、一時アメリカで修行をしていた彼の経験から言わせると、
どうやら「日本人の髪っぽくない」らしい。
これには自分も少し納得した。
めちゃくちゃ短い髪にした時、こんな感じになったことがあるからだ。
りーくんの動きを観察していると、いつもと違う切り方をしていることに気づいた。
飛び出した毛先を丁寧に切り、表面をならすような動き。
それはまるで、庭師が木を丸く切るような…
僕
「なんかいつもと切り方違うね」
りーくん
「はい、今日は木の剪定のつもりで切ってます」
思った通りだった。僕の頭で盆栽してた。
でもどうやら、いつもと切り方を変えたのが功を奏したらしく、
「今までで一番まとまってる!」
と自画自賛する りーくん。
今までで一番の出来なのはありがたいけど、
じゃあ逆に今までのカットは一体何だったのか。
まあ僕は満足してたからいいんだけど。
りーくんも今回の出来にはかなり満足しているらしく、自画自賛がしばらく続いた。
「いやー、これは評判いいっすよ」
「ついに到達したわー。庭師とアメリカでの経験が生きたわー」
「もう『操った』って感じしますもん」
「これ何も付けてないんすよ?乾かしただけっすよ?すごくないですか?」
……。
正直なところ技術的なことはよくわからないけど、
「そうだね。ありがとう」と僕は言った。
その日は帰って寝るだけだったのでワックスとか付けなかったが、
彼曰く「ちゃんとセットするともっとすごい」らしい。
カットから数日経った今、確かにいつもより扱いがラクなのは実感している。
嫁さんも珍しく「なんかまとまってるね」と言うから、やはり今回のカットはすごいのだろう。
いや、そうだ。
美容師って本当にすごい仕事なんだ。
自分は仕事をするとき、
企画を作るにしろ動画の編集をするにしろ、
じっくりと考える時間がある。
でも美容師はその時にリクエストをもらって、臨機応変にカットしていく。
即興力が弱い自分にとって、到底真似のできない仕事だ。
クセの強い僕の髪を完全に理解し、操ってくれる美容師が誕生した。
こんなにありがたいことはない。
僕
「じゃあ、今度から『いつものお願い』って言ったら、これにしてもらえるんだ?」
りーくん
「いや、それはわかんないっす」
おい。